方言については、「方言周圏論」(または方言周圏説)というものが成りたつことが、よく知られています。
この「方言周圏論」というものを短く説明すると、
古いコトバが、中央から遠く離れた地域に方言として残存するという現象
のことをいいます。ここでいう「中央」というのは、たいていは京都のことです。ただし江戸中期(元禄・化政)以後の場合は、江戸(東京)を中心として考えることもあります。
たとえば「かたつむり」を表す語形の全国分布状況を見てみることにします。すると、次のようになっています。
- 東北北部と九州西部に「ナメクジ」系が分布
- 東北南部と九州の一部に「ツブリ」系が分布
- 関東や紀伊半島南部、四国南部などに「カタツムリ」系が分布
- 中部や中国に「マイマイ」系が分布
- そして近畿を中心に「デデムシ」系が分布
しています。京都に一番近い近畿地方には、「デデムシ」系が分布している。そして、それから少し離れた中部や中国では「マイマイ」系使われている。といった感じで、中央から近い順に、
デデムシ系→マイマイ系→カタツムリ系→ツブリ系→ナメクジ系
と分布しています。
ここで、カタツムリのことを「ナメクジ」と呼ぶのは、中央では最も古い呼びかたです。そして、次に古いのが「ツブリ」系で、その次が「カタツムリ」です。
このように、古いものがかつての中央から遠く離れた地域に残ること。そして、より新しいものが周辺のより近がっているという現象。
このことを「方言周圏論」(方言周圏説)といいます。
イメージとしては、
水たまりのまん中に落とした石から同心円状の波が立つことで伝わっていくのと同じように、中央にあった古いものが、時間が経つにしたがって伝わっていくものだといえます。