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偽悪的讃辞
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偽悪的讃辞
偽悪的讃辞
ぎあくてきさんじ
asteismus, asteism
コロコロネコロン2
里子「お兄ちゃん
かわいいもの好きだから
喜んでくれるかなって」
お兄ちゃん(杜若)「なっ!?
バ… バカ言えっ!!」
「俺はこんな
丸っこくて!
目がクリクリしてて!!
ふかふかしてる
のなんて!!!」
一同(…)
お兄ちゃん(杜若)「
大嫌い
だっつ-の!!
」
(ぎゅうー)
里子 「お兄ちゃん かわいい?」
勇名 「…」
――『わ!』1巻94ページ
(小島あきら/スクウェアエニックス ガンガンコミックスONLINE)
偽悪的讃辞
は、非難しているようにみせかけて、じつは誉めているレトリックです。つまり、けなす形をとっているけれども、本当は、相手をたたえていることを感じとらせる表現です。
相手を強く誉めることになる
見かけ上は、相手をけなしていることになります。その結果「偽悪的讃辞」のばあいには反対に、相手を強く誉めることになります。(外見とは逆に)ふつうに誉めるよりも、強く誉めあげているということです。
:誉める、誉めちぎる、たたえる、称賛、賛する、もちあげる
相手をけなしていると見せながら、実は誉めている
相手をけなしていると見せながら実は誉めるのが、このレトリックの特徴です。表面上は相手を非難しているように見せかけながら、実は持ち上げているものです。
ページの最初の画像は、『わ!』1巻から。
このシーンで登場するのは、3人。里子(リコ)、杜若(カキツバタ)、それと勇名(イサナ)。
杜若は、里子から「お兄ちゃん」と呼ばれている。けれども杜若と里子とは、きょうだいの関係ではありません。幼なじみの関係にあるだけです。
それは、そうとして。
このシーンでは、1つの矛盾があります。一方で杜若は里子から、「かわいいもの好き」だと思われている。けれども杜若は、これを否定する。いわく、「バ… バカ言えっ!!」と。ここに矛盾があります
つづけて杜若は。ぬいぐるみの感想を語る。
「俺はこんな
丸っこくて!
目がクリクリしてて!!
ふかふかしてる
のなんて!!!」
というふうに。
そして最後に杜若は、このぬいぐるみ抱きしめる。さらに、
大嫌い だっつ-の!!
と叫ぶ。ここが「偽悪的讃辞」にあたります。
そのセリフだけを見た限りでは、(ぬいぐるみが)大嫌いだと思われる。
ですがこれが、見せかけだけのことばになっています。
本当は、
「俺はこんな
丸っこくて!
目がクリクリしてて!!
ふかふかしてる
のなんて!!!」
といったものが、大好きなのです。
つまり表面上は、その物事を否定する(=偽悪)。だけれども、本当はそのものを強く肯定している(=讃辞)。こういったものが、「偽悪的讃辞」にあたります。
早いとこ
元気になって…
いつものお前
みたく、うるさくしててくれよ。
――『美鳥の日々』1巻174ページ
(井上和郎/小学館 少年サンデーコミックス)
右の引用は『美鳥の日々』1巻から。
このマンガの舞台設定は、ちょっと不思議というか斬新というか、とにかく普通の舞台設定ではありません。
で、実のところどういう舞台設定になっているのかというと、
高校生の沢村正治の右手が、美鳥になった。
…いや、もっと説明しなければならないでしょう。
ある日のこと、突然右手から女の子の声が聞こえる。ふと右手を見ると、なんと、「女の子になっていた!」。その女の子は美鳥という名前で、中学の頃から、正治のことが好きだったのだという。
とにかく、「右手が女の子になった」のです。理屈とか論理とかは無視して下さい。
で、引用のシーンは、そんな美鳥が熱を出してしまっている場面。
正治の言葉、
いつものお前
みたく、うるさく
しててくれよ。
というのが「偽悪的讃辞」にあたります。
表面上はけなしています。「うるさくする」って文句を言っているように見えます。ですがその本心は、「早く元気になってほしい」っていう好意の言葉なのです。
「偽悪的讃辞」と「皮肉法」との関係
この「偽悪的讃辞」を「
皮肉法
」のグループに含めるかについては、考えかたが分かれます。そしてこれは、「
皮肉法
」をどのように定義するのかによって変わります。
結論から先に書くと、このサイトでの「
皮肉法
」の考えかたでは含めないことになります。「偽悪的讃辞」は、「
皮肉法
」に似てはいるけれども別のレトリックだということになります。
というのも、このサイトでは「
皮肉法
」について、次のように定義したからです。つまり、
回りくどさ : ワザと自分が思っていることと反対のことを言う
推論 : 聞き手のほうでは、相手の言っていることが思っているのと反対だとキャッチすることになる
引用性 : 相手が言ったり行ったりしたことに関してのことを言う
トゲがある :相手を非難したり批判したりするために使う
といった特徴をそなえているレトリックを、「
皮肉法
」としました。つまり「
皮肉法
」を、相手をけなすためのものに限定したのです。
たしかにこの「偽悪的讃辞」は、一見けなしているように見えるけど、実はほめているのです。ですので、相手を攻撃をすることが目的で使われるものではありません。
ですので、「偽悪的讃辞」は「
皮肉法
」には含まれないことになるのです。
「偽悪的讃辞」と「反語的讃辞」との関係
「偽悪的讃辞」は、けなしていると見せかけて誉めている。これに対して「反語的讃辞」は、誉めているとみせかけて、けなしている。
ですので「偽悪的讃辞」と「反語的讃辞」とは、正反対のものといえます。
偽悪的讃辞
偽悪讃辞
『日本語の文体・レトリック辞典』(中村明/東京堂出版)
手元にある資料で言うと、この本がいちばん多くの説明をしてあります。まあ、この「偽悪的讃辞」はかなりマイナーなレトリックです。なので、解説してある本は、かなり珍しいです。あとは、『レトリック辞典』(野内良三/国書刊行会)に数行ほど載っているくらいです。
関連するページ
皮肉法
:相手を非難したり、けなしたりするために反対のことをいう
そのた
[皮肉に関するレトリック] :
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- 反語的緩和 - 反語的期待 -
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